「自然体こそ美しい」という信念をどこかで植え付けられた僕にとって、カメラ目線は「美」の対局にあります。
カメラ目線になる時、人は見られることを意識します。ちょっといいカッコをしたり、いいアングルで写ろうとしてしまうのです。ひどい場合、ピースサインやキメ顔をぶち込まれます。
それらの作為に意識が向けられている間、自然な仕草から発せられるはずの内面の面白さは死んでしまいます。そのように浅はかな努力などせずとも、素で何かに取り組んでいる姿の方が圧倒的に面白いのです。
なので僕は、結婚式などのイベントで撮影を頼まれると、忍者の如く気配を消します。人影に隠れながら盗撮します。「不審者っぽい」と言われるのは覚悟の上です。実際、いつも言われます。
こんな無益な考えに凝り固まっているため、僕は自分自身が撮られるのも苦手です。
イベントではしばしば記念写真に写ることを要求されます。当然カメラ目線が要求されます。逃げたくても、「写真は苦手です」と言って去っては、パーティー気分の人々の興が冷めてしまいます。
写りたくない。しかし逃げることは許されない。
そんな八方塞がりの状況で、苦肉の策として僕が編み出したのが、 「抵抗のピース」 です。
通常なら人差し指と中指を立てるところを、中指と薬指を立てます。そうすることで、ピースサインを強制されているこの空間に対して抵抗し、作為と退屈の暗黒に飲み込まれまいとしているのです。
はい、なにも解決になっていません。しかし、この手には僕の激しい葛藤が象徴されているのです。
結婚披露宴の受付でチェキを撮られるたび、僕はアンニュイな顔で「抵抗のピース」を繰り出します。この苦悩、君たちのハートに届け。