『をんがへし』と能『隅田川』

古典芸能に詳しい方は、『をんがへし』が能の『隅田川』をパロったものであることに気づいたかもしれません。

『隅田川』は、1400年代に世阿弥の息子・観世十郎元雅によって書かれた能です。歌舞伎や浄瑠璃、オペラにもアレンジされています。

シナリオは以下のようにシンプルなものです。

  1. 行方不明の息子を探している母親が、隅田川の渡し船に乗る
  2. 相乗りしていた旅人が、対岸の人だかりについて渡し守に尋ねると、「あれはあそこで行き倒れになった子供を弔う念仏だ」と答える
  3. 渡し守が子供の特徴を説明すると、母親が「それは私の子供ジャマイカ!」と気づく
  4. 母親は息子の墓の前で、亡き我が子を思いながら念仏を唱える

大変に切なくも美しい作品です。


『をんがへし』では、息子の霊の名前「澄太」はそのまんま『隅田川』から取っています。母親の霊「伊勢 未弥子」は、『隅田川』でキーになる古歌である「尋ね来て 問はば答へよ 鳥 隅田川原の 露と消えぬと」(伊勢 物語 9段) から取っています。「伊勢」という名字ですが、スキンヘッドのエンジニアとは無関係です。


今の僕の能力では、オリジナルのシンプルさを保ったまま漫画化できなかったので、いろいろなアレンジを施しました。能面をかぶって変身(「物真似」)したり、バイクでブイブイ言わせたり。

いずれはもっと少ない要素でグッとくる漫画を描きたいですね。