愛しすぎるがゆえに、あえて距離を置かねばならない時があります。しかし、愛情は意志の力で断ち切れるものではありません。
僕はナッツを愛しています。
千葉県民としてピーナッツは言うまでもなく、カシューナッツ、ピスタチオ、くるみ、マカダミアナッツ、どれも狂おしいほど愛しています。芳醇な香りと官能的な歯ごたえが、僕の理性を狂わせます。
ミックスナッツ缶の封を開け、ひとたび口をつけると、たちまち自制心を失います。そして缶の底に指先が触れた時、はじめて恍惚から覚めます。本能のままにナッツをむさぼる僕の姿は、さながらカリン塔で仙豆を壺ごと喰らっていたヤジロベーのようです。
事が終わった後に常に訪れるのは、もうナッツは空なのだという深い喪失感と、悔いても悔いきれない膨満感です。こみ上げる感情と胃酸が肺を圧迫し、とめどなく溜息が溢れてきます。
これ以上こんなことを続けてはいけない。偏執的な愛は誰も幸せにしない。ナッツとは距離を置かねばならない。そんな悔悟の念を何度も胸に刻み込んできました。
しかし、スーパーで徳用ナッツを見かけるたび、その決心は忘れされれ、僕はまた同じ過ちを繰り返してしまうのです。