ジャズ理論で漫画を描く2

前回の記事 はジャズと漫画の両方に関心のある人しか理解できないと思っていたのですが、足立区にお住まいのうさぎから反響があったので、続きを書きます。

画のストーリーを書いた時、初稿は大抵「ありがち」な部分が残っているので、改良を施すことになります。この行為はジャズのアレンジによく似ており、実際僕はジャズの技法を流用しながらストーリーを練り直します。


ジャズでは様々なアレンジの方法がありますが、漫画でもよく使うのは以下の2つです。

  • リハーモナイズ: より豊かな響きになるよう、コード進行を変える
  • フェイク: テーマのメロディーやリズムを一部変える、または音を加える/減らす

リハーモナイズは奥深く、サウンドをガラッと変えることができます。緊張感が足りなければ 非和声音(テンションなど) を加えることで、よりリッチな響きを出せます。リハーモナイズを重ねてコードを連続で置き換えれば、原曲から大きく異なる独自のハーモニーを生み出せます。またフェイクもジャズの基本文法であり、なめらかなアプローチやタメを作れます。

例えば以下の3つの演奏はかなり違って聞こえますが、原曲は同じ “My Favorite Things” (1959年のミュージカル “Sound of Music” のテーマ曲) です。同じプレイヤーでも演奏のたびに異なるアプローチをしますし、まして違うプレイヤーなら解釈はガラッと変わります。

これらを漫画のストーリーのアレンジに当てはめると、以下のようになるでしょうか。

  • リハーモナイズ: 展開の山を移動する、または緊張と解放のタイミングをずらす
  • フェイク: ネタのタイミングをずらす、またはネタを加える/減らす

例えばあるシーンがいまいち盛り上がりに欠ける場合、その前後のリハーモナイズを行い、より緊張感のある進行に変えます。具体的には、ピンチなシーンならテンション(=スリリングな演出)を加えたり、山場の前にドミナントの連続を作ったりします。また、キャラクターの心情変化が不自然なら、フェイクによってアプローチノート(=変化の過程)を加え、自然な繋がりを演出します。

僕の調査不足かもしれませんが、こういう用途でバシッとハマる漫画用語が見つからないので、僕はジャズの用語を借用しています。ちなみに僕のもう一つの趣味であるカメラからもよく用語を借用し、感情変化や伏線回収が不自然に飛躍することを トーンジャンプ と呼んだりします。


なお、メインの描きたいシーン(山場やオチなど)が決まっていながら全体の流れが今ひとつイケていない時は、 リテイク(再録音) を行います。ジャズは即興演奏なので、同じ曲でも演奏のたびに異なる展開を見せます。テイクを重ねて曲と構造の理解が進むにつれ高度な展開を行えるようになります。

例えば『をんがへし』では4回リテイクを行い、最終的に公開したのは take 5 です。take 1 では母親の怨霊を浄化するのは瀧緒ではなく沙都美でしたが、キャラクター設定がややこしかったので変更しました。


この記事、誰に向けて書いているのかよく分かりませんが、足立区在住のうさぎからまたリアクションをいただいたら続きを書きます。